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Daigoro Yonekura
Biography

1975 Born in Hiroshima, JAPAN
1996-2002 B.A., M.A., Art / Hiroshima City University
2003-2006 Ph.D., Art / Hiroshima City University
2009-2010 Berlin University of the Arts (Guest student)
Fellowship : Pola Art Foundation, Tokyo, JAPAN

Exhibitions
Group Exhibitions

2000 Kameyama power plant museum (Hiroshima, JAPAN)
2003 PRIVACY-SELL&BUY (Hiroshima, JAPAN)
2004 Ondo art exhibition : Genius Loci (Hiroshima, JAPAN)
2005 Hiroshima city museum of contemporary art / art award (Hiroshima, JAPAN)
2005 Gift of Hiroshima (Braunschweig, GERMANY)
2006 JEANS FACTORY ART AWARD 2006 (Kochi, JAPAN)
2007 Gallery Yamaguchi (Tokyo, JAPAN)
2007 HIROSHIMA ART PROJECT:
Former naka waste incineration plant art project (Hiroshima, JAPAN)
2007 The SENSE of VALUE by BROADCASTER : Nakanojo Biennale (Gunma, JAPAN)
2008 Hiroshima Art Project 2008 :
Brackish Water Area The former Hiroshima Branch of the Bank of Japan (Hiroshima, JAPAN)
2010 This is red : CAP Cologne (Cologne, GERMANY)
2010 almost the same, but not quite (Berlin, GERMANY)
2010 We are the islands at Bethanien (Berlin, GERMANY)
2011 Hilfsaktion fuer Japan (Charity event) (Berlin, GERMANY)
2011 MAGICAL WORKS EXHIBITION:Nakanojo Biennale 2011(Gunma, JAPAN)

Solo Exhibitions
2005 Gallery Yamaguchi (Tokyo, Japan)
2006 Hiroshima City University (Hiroshima,JAPAN)
2006 Iwami art museum (Shimane, JAPAN)

http://d-yonekura.jpn.org/index-jp.html


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米倉大五郎

WORLD ABUSE : Single Phase World & Complex-Phase World

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作品の特徴

 早速ですが、プレゼンテーションを始めます。
先程自己紹介したように、私は主に絵画作品を制作しています。私の作品の特徴は、色彩を排したモノクロームな画面色調と、コラージュに類似した「CUT&COPY&PASTE」技法によって作品を制作していることです。その「CUT&COPY&PASTE」技法には、主に二種類の素材を使っています。一つ は「日本の風景写真を白黒コピーしたもの」。そしてもう一つは「特殊な塗料」です。 まず、こちらの画面をご覧下さい[fig.1]。これは、私が作品に使用している「白黒の風景写真」です。 写真には約20種類以上のストックがあり、その中から作品毎に数種類選んで作品に使用しています。 この画像を御覧のように写真には非常に細かいディテールがあります。これらのディテールは、日本の山に自生する様々な植物の葉が一枚一枚太陽光を反射することによって生じています。日本には写真のような山がたくさんあり、日本では日常的な風景です。
 では次をご覧下さい [fig.2]。これは「特殊な塗料」を使用した作品です。白と黒が互いに反発する性質を持つように調合しているので、ご覧頂いているように独特な模様を生み出しています。 私はこの特殊な塗料を「CUT&COPY&PASTE」技法に用いていますが、その具体的な方法や作品については、プレゼンテーション後半部分で紹介したいと思います。

CUT&COPY&PASTE

  さて、私はこれら二種類の素材を「CUT&COPY&PASTE」することによって、作品制作を行ています。これら二種類の素材は、それぞれ単独で作品に使用するので、併用することはありません。もし仮に、私の制作活動を前期と後期に区分すれば、前期に含まれるのが「白黒の風景写真」であり、「特殊な塗料」は後期に使用していると言えるでしょう。もちろん、どちらの素材を用いた場合も「CUT&COPY&PASTE」が私にとって重要な方法論であることに違いはありません。そして、このように私が「CUT&COPY&PASTE」技法に拘るのは、「空間」を考察することに目的があります。「風景写真」に含有する「空間」のマトリクスを、折り畳んだり/ 鏡像化させたり / 連結したり / 切り離したり様々な操作を加えること、つまり「空間」を激しく掻き回す試みには「CUT&COPY&PASTE」が役立っています。

 それでは、ここで「風景写真」を素材にして様々な試行錯誤の末に完成させた、幾つかの作品を紹介したいと思います。

fig.1:日本の風景写真

fig.2: UNTITLED.5-2, 2006, 210mm/297mm, paint on paper

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Untitled.1

 先述した「風景写真」と「CUT&COPY&PASTE」技法によって制作した作品です。「風景写真」をリング状に連結させることによって、人間の形を模した造形となっています。ディテールの集積が作品画面に明瞭な立体感を生み出しています。また、作品の中心部周辺は、合わせ鏡の要領で左右対称図形になっています。左右対称に配列した細部は、実際には線描されていないにも関わらず、錯覚的に対称軸の存在を知覚させます。このような画面構成は、神社や寺院の建造物に見られる左右対称構造を模したものであり、その結果作品画面中央部の黒い穴の部分へ吸い込まれるかのような視覚効果が感じられることと思います。では次の作品を紹介します。

Untitled.2-1/2-2/2-3

 先程の作品を原案にした長辺12m短辺5mの大型作品です。この巨大な作品は、ナスカの地上絵が発想の発端となっています。古代人が星座に動物や器具の名前を名付けて宇宙空間を把握したように、この展示を行った地域は、山の形が亀に似ていたことから「亀山」と呼ばれています。 そこで、私はそのような古代人のイマジネーションに則って、「風景写真」を使って人の形を模した作品の制作を試みました。私は画家ですが、この作品のようにインスタレーションやサイトスペシフィックなコンセプトを導入することによって、空間体験を重視した展示も行います。では次の作品を紹介します。

UNTITLED.1, 2000, 2000mm/950mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker

UNTITLED.2, 2000, 12880mm/5400mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker

P2-2/9

Untitled.3-1/3-2/3-3/3-4

 上下左右対称の四角形の作品です。人型作品に於ける黒い穴の表現とは異なって、作品画面中央部に砂嵐のような表現を施してあります。この砂嵐のような表現は、写真をコピーした際に生じる小さな粒子状のノイズを切りとって収集したものを使用しています [fig.3.4]。その粒子には、切り取った風景写真の中に残る立体感の残影が、まるで異次元空間のような表象を垣間見せています。 後にこの作品は四つのヴァリエーションへと発展させることが出来ました [Untitled.3-1/3-2/3-3/3-4]。異次元空間のように見えた部分をそのまま取り出すことで、空間と立体の狭間の表現を試みています [Untitled.3-3/3-4]。作品画面の基本構図はシンメトリーなので、鏡像の基準となる対称軸周辺には、ロールシャッハ・テストのように顔や昆虫等のランダムな錯視体験を生み出します。[fig.4]作品は他にもパース画や水墨画などを参照した様々な作品を制作しましたが、話が複雑になるので、ここでは割愛させて頂きます。[C.I,/Untitled.4]

左右対称について

 さて、僅かですが「風景写真」を使用した作品の中から、主要な作品を紹介させて頂きました。 紹介した作品には「CUT&COPY&PASTE」特有の図像が満ちていたと思います。そして、「風景写真」に含まれた「空間」のマトリクスが、「CUT&COPY&PASTE」つまり繰り返さる解体と再構築によっ て、作品へと移植されていることが確認出来たと思います。ここでは「左右対称図形」を構図にした作品のみ紹介しましたが、その訳は「左右対称」こそ私が作品を通じて目指す「世界観」の謎を解く鍵となる概念だからです。次に詳しく解説しますが、「左右対称」は「空間」の探求者にとって重要な図形なのです。

UNTITLED.3-1,3-2, 2000, 1945mm/1145mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker

UNTITLED.3-3,3-4, 2000, 2000mm/1110mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker

fig.3:砂嵐のような表現(左)

fig.4:UNTITLED.3-3,3-4
の中央細部(右)

UNTITLED.3-1, 2000, 1945mm/1145mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker

C.I., 2004, 2100mm/3300mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker on canvas

UNTITLED.4, 2002, 3500mm/4000mm, copypaper/gesso/felt-tipped marker on paper

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 さて、私の作品と思考の足跡に関する解説はまだ始まったばかりです。ここからの解説は、先程紹介した作品を制作するに至ったコンセプトから、現在の制作活動へと続く探求の軌跡を追った解説になります。解説が進むにつれて、私が作品を通じて目指す「世界観」が「左右対称」を鍵にして徐々に姿を現しますが、まずは「空間」について述べることから、解説を始めたいと思います。

空間とイマジネーション

 まず、目の前に広がる空間を見つめてください。この無限に広がる、無色透明な空間を見つめてください。私達にはこの「空間」が見える筈です。しかし実際には、完全に無色透明な「空間」が目に見える筈がありません。つまり、厳密に言えば無色透明な「空間」は、「見える」とも「見えない」とも言えるような二律背反を起こす奇妙な性質を持っていると言えます。
 では、今度は反対に目を閉じてください。私達人間には目を閉じた暗闇の中でも「見える」ものが あります。それはイマジネーションです。イマジネーションは「見えない」ものが「見える」私達の能力です。お気づきでしょうか?「空間」と「イマジネーション」は類似しています。「見える」とも「見えない」とも言える奇妙な性質は、「空間」と「イマジネーション」に共通する特徴なのです。そして、このような特徴は「空間」と「イマジネーション」の同一性を垣間見せています。

単相世界/Single phase world

 このような「空間」と「イマジネーション」の同一性は、換言すれば「現実世界」と「想像世界」の密着を意味します。このことから、私は「現実世界」と「想像世界」の有相無相が一体化した世界の存在を推論しないではいられません。私にはこのような「世界」に対して直感と実感があります。 そこで、私はこの「世界観」を「単相世界」と名付けました。そして、実はこの「単相世界」こそ私が作品によって表現したい「世界観」なのです。
 しかし、そのような実感と直感だけでは、豊かな「世界観」を築くのは困難でした。なぜなら、現段階で「単相世界」はどこまで行っても無色透明で無限に広がる「空間」や「イマジネーション」に過ぎなかったからです。私はこのような状況に業を煮やしましたが、考えあぐねた末に一つのアイデアをへと辿り着きました。それは、無限に広がる無色透明な「単相世界」を一度「分割」することです。「単相世界」を「分割」した後に、もう一度「統合」すれば「単相世界」を復元出来るからです。 そして、このような「分割」と「統合」を同時に表現すれば、「単相世界」は表現出来ると考えました。

バーネット・ニューマン

 このような世界の「分割」と「統合」を同時に表現する発想は、20世紀のアメリカ人画家バーネット・ ニューマンのジッパーワークを踏襲しています [fig.5]。ニューマンは、作品画面に一本の線を描きそれを衣服のジッパーに見立てることによって、「分割された世界」と「統合された世界」が同居した世界の表現を試みました。ただし、ニューマン本人も述べたように [q.v.1]、彼の作品には本質的に彼自身にしか理解出来ない独我論的な欠陥があります。つまり、ニューマンの表現は万人に理解出来るものではなかったのです。そのため、私自身もニューマンの作品には批判的ですが、「分割された世界」 と「統合された世界」を同時に表現する彼の発想は注目に値します。

fig.5:Barnett Newman's painting

q.v.1:"Painters Painting- A Candid History of the Modern Art Scene, 1940-1970", Mitch Tuchman, in chapter of Barnett Newman

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多義図形

 ニューマンのように、相反するものを同時に表現する試みは、「多義図形」として知られています。 例えば [fig.6.7] をご覧下さい。[fig.6] は「アヒルとウサギ」を同時に表現し、[fig.7] は「壷と横顔」というように、どちらも二通りの異なる解釈を同時に促します。このような「多義図形」を作画に使用すれば、「分割された世界」と「統合された世界」を同時に表現出来る筈です。そして、その際に表現の鍵となるのが「左右対称図形」です。「左右対称図形」を「多義図形」として解釈すれば、「左右」が「分割」されているようにも「統合」されているようにも感じられる図が制作出来ます。例えば、私が風景写真を世界の象徴として用いた [Untitled.1] には、作品画面中央にある「左右対称軸」を基準にして、作品画面の「左右」が「分割」されているようにも「統合」されているようにも感じられる筈です。つまり、「左右対称」を用いれば作品世界の中に、「単相世界」を表現をすることが出来るのです。

 また、その一方で「単相世界」の表現に、「左右対称」を用いる理由がもう一つあります。それは、「左右対称」が「空間」と「イマジネーション」が一体化した領域を強く実感させてくれるからです。そこで、そのような領域を実感する為に、その具体例として「左右の手」を用いたパズルを、ここで試みてみたいと思います。この「左右対称」のパズルを解く際に、「空間」と「イマジネーション」が一体化した領域が忽然と姿を現します。

fig.6:うさぎとアヒル

fig.7:女性と老婆

左右対称/ 左右の手

 さて、「左右の手」を使った「左右対称」のパズルは実に単純です。「左右の手」はとても類似した形ですが、ではどうすれば「左右の手」の形を合致させることが出来るのか?というパズルです。例えば [fig.8] のように平面の「左右対称」ならば、[fig.9] のように「空間」を折り畳めば形は合致します。このような形体の合致は、果たして立体の「左右の手」でも可能でしょか? 試しに、左右の掌を合わせてみましょう。しかし、これでは「左右の手」が合致したとは言えません。今度は試しに、左手の手袋を右手に嵌めてみます。当然ながら左手用の手袋は右手にはうまく嵌りません。実際「左右の手」は違った形なのだから当然の結果に思えます。では果たして「左手と右手」を合致させることは本当に出来ないのでしょうか?
 これは、実に単純なパズルですが一筋縄で解答にへ辿り着くのは至難の技です。そのため、結論から言っておきますが、実は「左右の手」を合致させることは可能です。「左右の手」を合致させる方法、それは「内側」と「外側」を引っくり返すことです。[fig.10] のように、「内側」と「外側」を反転させれば、「左手」と「右手」を合致させることが出来るのです。つまり、最初は合致しなかった「左右の手」が、「内側」から「外側」へと、まるで靴下を丸めて履き替えるかのように反転させた途端、「左右の手」を合致させることが出来たのです。この合致した瞬間は非常に重要です。なぜなら、その刹那にこそ私達は「左右の手」に働きかけた「空間」と「イマジネーション」の一体化を実感出来た筈だからです。左手用の手袋を右手に嵌める際に、これまで存在しなかった「空間」をトランスフォーメーションさせる様式が「イマジネーション」によって生じた結果、「左右の手」を合致し得たのです。 ここに、「空間」と「イマジネーション」が一体化した領域を見出すことが出来るのです。 参考文献[q.v.2]

fig.8:二次元の両手

fig.9:二次元の両手の三次元における変換

fig.10:左手用の手袋を右手用に変換

q.v.2: 参考文献 『 空間における方位の区別の第一根拠』イマヌエル・カント

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World Abuse

 さて、「現実世界」と「想像世界」が密着した「単相世界」は、単に無色透明な無限の広がりに過ぎませんでした。しかし、「分割」と「統合」を同時に表現出来る「左右対称」は、「単相世界」の表現を実現させました。また、「左右の手」を使ったパズルを通じて、「空間」と「イマジネーション」が一体化した領域を、僅かながら実感して頂けたのではないかと思います。ここでは、「左右対称」に絞って解説を行いましたが、このような「空間」と「イマジネーション」の一体化した領域は、「左右対称」に限って生じる領域ではありません。例えば、世界地図には「正距方位図法[fig.11]」や「モルワイデ図法[fig.12]」や「メルカトル図法[fig.13]」というように様々な種類がありますが、これらの地図も「空間」と「イマジネーション」によって、地球の表面をトランスフォーメーションさせた図形と言えるでしょう。また、今回の解説では割愛した、水墨画や遠近法を構図に用いた私の作品にも、そのような意図が根本にあります。

 ところで、私は私の作品に限らず、このような「空間」と「イマジネーション」によって世界観を創出する実践を「World Abuse」と呼び作品のコンセプトにしています。「World Abuse」というコンセプトを軸にして制作と思索を巡らせば、私達が心に思い浮かべる世界観やイマジネーションの実相に、肉薄出来ると考えています。

fig.11:正距方位図法

fig.12:モルワイデ図法

fig.13:メルカトル図法

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 ここで漸く解説も半ばに到達しました。解説はこれから後半部分へと入って行きます。また、ここで行う解説では、作品素材が「風景写真」から「特殊塗料」へと移り変わります。それにともなって、作品のテーマは「空間」から、世界を構成する様々なシステムが認識可能な状態で現れた表象、つまり「現象」へと歩みを進めていきます。その歩みは、私の作品が目標とする世界観を踏襲しつつ発展させたものであり、これから紹介する素材とテーマは作品世界を深淵へと近づかせます。では、その歩みの発端となったドローイングの紹介から始めましょう。

一筆書き(閉路の場合)Single closed-circuit

 まず、これまでの作品は、世界の象徴として白黒の「風景写真」を用いていました。しかし、「風景写真」による制作は描写の自由度も低く、もっと作品世界と素材の綿密な関係性を築く必要性を感じていました。そこで、その問題の解決策を求めて、私は後に紹介する塗料の実験を行いました。やがて、その実験は『白と黒さえあれば作品は制作出来る。』という直感へと私を導きます。私はこの直感に従っ て [Drawing.1.2.3]を制作しましたが、その結果私は一つの法則を発見しました。[fig.14] を見てください。ここに示した図はすべて一筆書きで描かれていますが、この図形を白と黒が隣り合わないように相互に塗り分ければ [fig.15] になります。この図を見ても解るように、一筆書きで描かれた図形には、白と黒で塗り分け出来るという法則があるのです。このような法則性は、「黒の色面」と「白の色面」が点で接する部分を、輪の捻れた部分と考えた場合、その捻れを全て解けば一個の輪になることに原因があります[fig.16]。つまり、一筆書きは「表と裏」を「白と黒」に塗り分けた一個のコインを、何度も何度も捻った形と同じ構造を持っているの です。このような構造によって、一筆書きは必然的に「白」と「黒」に塗り分け可能なのです。このような法則性は、複雑で深淵な図形の世界からすれば些細な法則性ですが、単なる白と黒の落書きの中にも、精密な構造があることに気づかせてくれます。それは、例え白と黒しかなくても、深淵な世界観を示せる可能性を感じさせました。

fig.14:一筆書きの例

fig.15:一筆書きの図を白と黒で塗り分ける

DRAWING.1,2,3,4, 2000, 420mm/297mm, pencil/CG/felt-tipped marker

fig.16:一筆書きが白と黒で塗り分けできる理由の概念図

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 Hydrostatic Drawing

 このような可能性の芽生えから、私は白と黒の塗料のみ用いた作品:[Hydrostatic Drawing.1.2.3] を制作しました。写真のように、ヌルヌルとした塗料の表面と図像が、表面張力で均衡した状態を作品としてます。そのため、時間とともに乾燥や振動によって、表面張力は失われ図像が崩壊するので、 作品として存在するのは一時間を満たない儚い作品となっています。[fig.17] のようなゲル状の物質性。その表面を覆う複雑な色面。そして、その色面を分つ滑らかな境界。これら三つのセクションか ら構成されたシンプルな作品ですが、白と黒の境界部分を見ていると、自分が異次元に入ったような印象を持ちました。このように、「Hydrostatic Drawing」は、自然現象の中で刹那的に均衡が保たれた状態を作品にしています。私は、このような複合的現象の中でイメージが均衡した状態を、絵画と理解して良いのではないか思いました。例えば、大気と光から構成される自然現象:「虹」のような絵画です。この作品以降、私は現象をイメージとして定着させることに腐心するようになりました。

fig.17: HYDROSTATIC DRAWINGの細部

HYDROSTATIC DRAWING.1,2,3, 2000, unform, gesso

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特殊塗料

 ヌルヌルとしたエロティックな質感。表面張力で生じる図像を維持する能力。そして「風景写真」の作品で培った「Cut&Copy&Paste」や「左右対称」等。私は、これまでの思考の軌跡を活用出来る塗料の調合を進めました。そして、試行錯誤の末に漸く完成させたのが、プレゼンテーション冒頭でご覧頂いた作品です。ここでは、具体的に作例を示しながら「特殊塗料」の特徴と具体的な使い方を解説しておきたいと思います。

Untitled.5-1/5-2

 まず、この塗料の特徴の一つは、ヌルヌルとした質感を維持したまま硬化することです。つまり、「特殊塗料」は、前出の「Hydrostatic Drawing」のように、塗料の乾燥に伴って図像が崩壊する欠点を克服しています。また、「特殊塗料」は白と黒が互いに反発するように調合出来るので、作例のように黒と白が互いを弾いた奇妙な模様を描くことも可能です。では次の作品をご覧下さい。

UNTITLED.5-1, 2006, 210mm/297mm, paint on paper

UNTITLED.5-2, 2006, 210mm/297mm, paint on paper

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Symmetry Figures.1/2 / Untitled.5

 ここで紹介する三つの作品は、硬化させた「特殊塗料」を、まるでステッカーのように直接壁面や床面に貼付けた作品です。このように「特殊塗料」は、硬化後には支持体を必要としないステッカーの状態に出来ます[fig.18]。つまり、「風景写真」を「Cut&Copy&Paste」したように、「特殊塗料」は「Cut&Paste」が可能な塗料なのです。
 また、壁面へ設置した作品が「左右対称図形」であることに注目してください。「特殊塗料」は「左右対称図形」も制作出来るのです。[fig.18] 本頁下部の写真をご覧下さい。写真では判別し難いですが、 二枚の透明なシートを使って塗料を挟み込んだ後、塗料を挟んだシートをめくって上下双方に「左右対称図形」が転写される様子が解ると思います。「デカルコマニー技法 [q.v.3]」に類似したこの技法は「Cut&Copy&Paste」の内「Copy[q.v.4]」に該当するので、これで「特殊塗料」による「Cut&CopyPaste」 が全て可能になったと言えるでしょう。そして、この技法は単に「左右対称図形」を描く技法に留まらず、「左右対称」を鍵にした世界観を体現する手法だと考えています

q.v.3: http://ja.wikipedia.org/wiki/デカルコマニー
q.v.4: この「Copy」は鏡像転写に留まるものであり完全な複写とは異なります。

fig.18:ステッカー状の特殊塗料と特殊塗料による鏡像コピー

SYMMETRY FIGURES.1, 2008, 160mm/160mmX2, paint

SYMMETRY FIGURES.2, 2010, 270mm/160mmX2, paint on wall

UNTITLED.5-3, 2008, 420mm/297mm, paint on floor

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現象のコラージュ

 このように、「特殊塗料」は「Cut&Copy&Paste」が可能であり、尚かつ「塗料」の表面に生じる「現象」を定着させることが出来ます。「風景写真」を用いて「Cut&Copy&Paste」を行った時のように、「現象から生じる図像」によって絵画作品を制作出来るのです。このように、様々な現象を絵画世界の図像へと変換して作品世界を構築する手法を、私は「現象のコラージュ」と呼んでいます。 さて、本日のプレゼンテーションも終わりに近づきました。早速ですが、特殊な塗料を用いた「現象のコラージュ」による作品を紹介したいと思います。

Untitled.6 / Untitled.7

 まず、左右対称を基本構図にした二枚一組の絵画作品を二つ紹介します。これらの作品は、「風景写真」の作品で主題となった「左右対称」と、「現象のコラージュ」を組み合わせたシンプルな作品です。作品の表象には、塗料の粘りがチューインガムのように引き伸ばされた痕跡が作品画面に強く現れています。塗料の粘度に応じた表面張力や調合した塗料の科学反応等様々な「現象」が作品の表象を構築しています。
 そして、これらの「現象」に加えて、新たに塗料の垂れた痕跡を作画に導入したのが、作品「Untitled.7」です。作品に塗料の垂れを導入することによって、絵画画面に方向性を付与するアプローチを試みています。また、このような「左右対称図形」からは、「多義図形」にも似た「ロールシャッハ・テスト[qv.5]」 のような視覚効果が生じています。では次の作品です。

Untitled.8

 この作品は、先の二作品とは異なり、直接パネルに白と黒の塗料を垂らした後、塗料をサンドイッチ状に挟み込み、それを再び広げることによって制作しています。一般的に絵画作品は、彩色された四角形のカンバスが、白い展示用壁面から際立って見えることから「窓」に例えられることがあります。この作品もそれに倣い作品画面上下の端に黒色を配色することで、白い壁面から際立たせる効果を意図して制作しています。では次の作品です。

q.v.5: http://ja.wikipedia.org/wiki/ロールシャッハ・テスト

UNTITLED.6, 2009, 455mm/635mm, paint on panel

UNTITLED.7, 2010, 455mm/635mm, paint on panel

UNTITLED.8, 2010, 455mm/635mm, paint on panel

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Forest in the hole.1,2

 この作品は、これまでの作品とは違って、顔料をメディウムで溶いた塗料による作品です。粘度の低いこの塗料をパネルとシートで挟み、再びパネルからシートを剥がす際に生じる毛細管現象によって生まれる図像を作品に活用しています。また、この手法から生じる図像は、液体の粘性によって多様に変化します。私はこのような現象のみならず、様々な現象から成る図像を多く採集し、絵画の筆致として作品に導入していきたいと考えています。では次に、本日最後の作品を紹介します。

Flower (Carnation)/Detail

 特殊塗料を様々に操作することで生じる多様な現象を、絵画の筆致と捉えて花の描写を試みた作品です。「CUT&COPY&PASTE」による花弁の表現はもちろん、白と黒の塗料を強く反発させて模様を生み出し陰影表現に用いています。細い茎は、特殊塗料の粘度を極限まで水アメ状にしたものを、アクションペインティングのような方法で描写しています。森羅万象が、様々な物理法則や未知の現象によって形成されていることと同等に、特殊な塗料から生じる現象によって、絵画世界の構築を試みています。

FOREST IN THE HOLE.1, 2011, 200mm/200mm, paint on panel

FOREST IN THE HOLE.2, 2011, 200mm/200mm, paint on panel

FLOWER(CARNATION), 2008, 1703mm/1072mm, paint on panel

P9/9

World Abuse の目標

 さて、世界の絵画史に登場する幾千もの作品を振り返れば、絵画に織り込まれた無垢な筆致の集積は、積み重ねられた歴史によって感覚と認識を獲得してきましたが、それと同様に「現象のコラージュ」も、解釈が未定の無垢な現象を綴った、新たな感覚と認識を創出する試みとは言えないでしょうか?。例えば、様々な世界地図が様々な感覚と認識を設計するようにです。つまり、「現象のコラージュ」は、多様な現象を作品世界の筆致に変換する方法なのです。私はこのような「現象のコラージュ」を、新たな世界観を生み出すイマジネーション、つまり 「World Abuse」の一つに位置づけています。
 「WorldAbuse」というコンセプトを軸にして制作や思索を巡らせば、様々な世界観やイマジネーショ ンの実相に肉薄出来ると考えています。そして、このような私の試みが、美術の分野のみならず物理学や数学や哲学などの諸分野へ影響を与えたり、新たな発見を先駆けることが理想です。このような構想は無謀な試みでしょうか?。実際、このような方針で創作活動を行う作家は、世界でも少ないと思います。※しかし、ドンキホーテにも似たこのような試みも、人類の歴史を見渡せば先陣を切り開いていった人物にも出会います。

ポー

 例えば、推理小説の礎を築いた小説家であり詩人のエドガーアランポーもその一人です。彼は晩年 に「エウレカ」という著作を発表しました。宇宙についてのエッセイが綴られたこの著作の中には、奇妙な問題提起がなされています。その問題提起は、「広大な宇宙空間に無数の星が存在するのだから、夜空は輝く星に満たされて、夜空は輝きに満ちて明るい筈なのに、なぜ夜空は暗いのか?」という奇妙なものでした[q.v.6]。この問題に対してポーは、宇宙は広大すぎて宇宙の端から地球表面まで「まだ光が届いていない。」と 回答しています。極めて詩的で美しい彼の回答から100年後、ポーの回答を読んだ宇宙論者エドワード・ハリスが述べたそうです。「初めてポーの記述を読んだとき、私は仰天した。詩人が、あるいはせいぜいのところ科学の愛好者が、いったいどうして140年も前に正しい説明に気づいていたのだろう?われわれの大学では......今でも間違った解釈が教えられているというのに[q.v.7]」つまり、ポーのイマジネーションは物理学の常識を100年先取りしていたのです。

結語

 私はどのような分野の探求者であっても、イメージを駆使することに変わりはないと思うのです。 ましてや、美術や絵画はそのイメージを酷使する分野なので、世界の常識を覆すことも不可能ではないと思うのです。願わくば、私が企む「World Abuse」というコンセプトが成就して、現実世界ばかりでなく人間の抱く世界観やイマジネーションの実相を明らかにしたその時は、絵画が絵画を超えた意味と役割を担う分野となって、新たな様式を実装することでしょう。私は未見の世界観を切り開く開拓者でありたいと考えています。

 本日の解説はこれで終了です。長時間ありがとうございました。

q.v.6: 物理学で『オール・バースのパラドックス』と呼ばれる問題です。 『 パラレルワールド -11次元の宇宙から超空間へ-』 ミチオ・カク P40, L10

q.v.7: 『パラレルワールド -11次元の宇宙から超空間へ-』ミチオ・カク P41, L3

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Daigoro_Yonekura_portfolio_40MB_2017.pdf
Daigoro_Yonekura_portfolio_55MB_2016.pdf
EXPERIMENT: Bathtab Drawing
2013, pigment & medium & Water
WORK: A Piece of Waterfall 1, 2, 3
2013, pigment & medium on panel, 330mm x 480mm
EXPERIMENT: Water & Pigment & medium
EXPERIMENT: Water & Pigment & Sand Paper
WORK: Radius
2013, pigment & medium on panel, 965mm x 965mm
WORK: Mirage Mountain
2012, pigment & medium on panel, 1250mm x 520mm
PROCESS: Coating Operation